
前頭部線維化脱毛症(FFA)ってどんな病気?

前頭部線維化脱毛症(Frontal Fibrosing Alopecia, FFA)は、瘢痕性脱毛症の一種であり、主に前頭部から頭頂部にかけての毛包が破壊され、永続的な脱毛を引き起こす疾患です。女性に多く発症しますが、男性にも見られます。近年、世界的に患者数の増加が報告されており、注目されている脱毛症です。

どんな症状が出るの?

- 生え際が後退する:
おでこが徐々に広くなるように見えます。 - 頭のてっぺんが薄くなる:
頭頂部の髪が細くなり、地肌が見えやすくなります。 - 眉毛が薄くなることも:
約70-80%の患者で、眉毛の外側1/3を中心に、眉毛の脱毛が見られます。 - 頭皮のかゆみや痛みが出ることも:
人によっては、頭皮に軽いかゆみや痛みを感じることもあります。 - 腋毛、陰毛の脱毛:
症例によっては、腋毛や陰毛の脱毛を伴うこともあります。 - 顔面の毛包性紅斑:
顔面に小さな赤いブツブツ(毛包性丘疹)が多発することがあります。これは顔面の毛包にも炎症が起きていることを示唆しています。

なぜこの病気になるの?

はっきりとした原因はまだわかっていません。しかし、女性ホルモンの変化や、免疫システムの異常、遺伝的な要因などが関係しているのではないかと考えられています。更年期以降の女性に多く見られますが、若い女性や男性にも起こることがあります。
- 自己免疫反応: 自身の毛包に対する自己免疫反応が、炎症を引き起こす主要な機序と考えられています。リンパ球性炎症が、毛包の特に峡部から峡上部にかけて観察されます。
- ホルモンバランスの乱れ: 更年期以降の女性に多く発症することから、エストロゲンなどの性ホルモンの低下が関与している可能性があります。
- 遺伝的要因: 家族内発症の報告もあり、遺伝的な素因も関与していると考えられます。
- 環境要因: 近年の患者数の増加から、環境因子の関与も示唆されています。紫外線、ヘアケア製品、感染症などの可能性が考えられますが、詳細は不明です。

診断

FFAの診断は、主に以下の項目に基づいて総合的に行われます。
- 臨床症状: 特徴的なヘアラインの後退、眉毛の脱毛、その他の症状の有無を確認します。
- ダーモスコピー: 特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を用いて、頭皮や毛髪を詳細に観察します。毛包周囲の紅斑、鱗屑、毛包開口部の消失、瘢痕化などの所見を確認します。
- 病理組織学的検査: 必要に応じて、頭皮の一部を採取し(皮膚生検)、顕微鏡で病理組織学的に評価します。
- 毛包周囲のリンパ球浸潤、毛包の破壊、瘢痕化などの所見を確認します。

鑑別診断

FFAと鑑別すべき疾患には、以下のようなものがあります。
- 女性型脱毛症(FAGA)/ 男性型脱毛症(AGA): びまん性の脱毛が特徴であり、瘢痕形成は伴いません。
- 円形脱毛症: 境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑が特徴です。通常、瘢痕形成は伴いません。
- 瘢痕性脱毛症: 他の原因による瘢痕性脱毛症(例:円板状エリテマトーデス、毛孔性扁平苔癬など)も鑑別が必要です。
- 4番目の項目
特徴 | 前頭部線維化脱毛症 (FFA) | 毛孔性扁平苔癬 (LPP) | 円形脱毛症 (AA) |
---|---|---|---|
主な脱毛部位 | 前頭部から側頭部の生え際、頭頂部 | 頭頂部、側頭部、頭部全体に散在することもある | 頭部全体(円形または楕円形)、眉毛、まつ毛、体毛にも生じうる |
脱毛のパターン | 生え際が帯状に後退、頭頂部のびまん性脱毛 | びまん性、または多発性の脱毛斑、融合することもある | 境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑 |
毛包の状態 | 毛包開口部の消失、瘢痕化 | 毛包周囲の紅斑、鱗屑、毛包の角化性丘疹 | 毛包は残存、毛包口ははっきり見える |
瘢痕形成 | あり (瘢痕性脱毛症) | あり (瘢痕性脱毛症) | 通常なし (非瘢痕性脱毛症) |
主な患者層 | 更年期以降の女性に多い | 中年以降の女性に多い、男性にも発症する | 年齢、性別問わず |
炎症 | 毛包周囲のリンパ球性炎症 | 毛包周囲のリンパ球性炎症、界面皮膚炎 | 毛球部周囲のリンパ球性炎症("スウォーム オブ ビーズ") |
その他の症状 | 眉毛の脱毛、顔面の毛包性紅斑、かゆみ、痛み | 頭皮の強いかゆみ、痛み、灼熱感 | 爪の異常(点状陥凹など) |
ダーモスコピー所見 | 毛包開口部の消失、毛包周囲の白色輪、血管拡張 | 毛包周囲の紅斑、鱗屑、中心部の白色瘢痕 | 断毛、ブラックドット、イエロードット、毛包開口部がはっきり見える |
病理組織学的特徴 | 毛包周囲のリンパ球性炎症、毛包の破壊、線維化 | 界面皮膚炎、毛包周囲の帯状リンパ球浸潤、毛包の破壊 | 成長期毛包毛球部へのリンパ球浸潤、毛包の小型化 |
治療 | ステロイド外用・局注、免疫抑制剤外用、ヒドロキシクロロキン内服、5α還元酵素阻害薬内服など | ステロイド外用・局注、免疫抑制剤外用・内服、ヒドロキシクロロキン内服など | ステロイド外用・局注・内服、局所免疫療法、JAK阻害薬など |

治るの?

残念ながら、今のところ完全に治す方法はありません。しかし、病気の進行を遅らせたり、症状を軽くしたりするための治療法はいくつかあります。

どんな治療法があるの?

FFAの治療は、炎症を抑え、脱毛の進行を抑制し、残存する毛髪を維持することを目的として行われます。
外用療法:
- ステロイド外用: 強力なステロイド外用薬が第一選択となります。炎症を抑える効果があります。
- タクロリムス外用: ステロイド外用で効果不十分な場合、免疫抑制剤であるタクロリムス外用が用いられることがあります。
内服療法:
- ステロイド内服: 重症例や急速進行例では、ステロイド内服が用いられることがあります。
- ヒドロキシクロロキン内服: 抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンが、炎症を抑える効果があるため用いられることがあります。
- 5α還元酵素阻害薬(フィナステリド、デュタステリド)内服: 男性ホルモンの影響を抑えることで、脱毛の進行を抑制する可能性がありますが、効果は限定的です。
- その他の内服薬: ドキシサイクリン(抗生剤)、シクロスポリン(免疫抑制剤)などが使用されることもありますが、エビデンスは限られています。
局所注射療法:
- ステロイド局所注射: 炎症が強い部位に、ステロイドを直接注射することで、効果的に炎症を抑えることができます。
その他の治療:
- 光線療法: 紫外線を用いた光線療法(ナローバンドUVBなど)が、一部の症例で有効な場合があります。
- 植毛術: 炎症が落ち着いた後、最終手段として自毛植毛が考慮されることもありますが、生着率が低い可能性があり、慎重な適応判断が必要です。

大事なポイント

- FFAは生え際や頭のてっぺんの髪が薄くなる病気です。
- 原因はまだよくわかっていません。
- 完全に治す方法はまだありませんが、進行を遅らせたり、症状を軽くしたりする治療法はあります。