
毛孔性扁平苔癬
(もうこうせいへんぺいたいせん)とは?

毛孔性扁平苔癬(LPP)は、主に頭皮に影響を及ぼし、脱毛を引き起こす可能性のある慢性炎症性疾患です。一般的に、瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)と呼ばれる、永久的な脱毛を引き起こす脱毛症の一種として分類されます。
この病気はどのような人に発症する?
LPPは比較的まれな病気であり、誰にでも発症する可能性がありますが、中年女性に多く見られます。また、特定の遺伝的要因や環境要因が発症に関与している可能性も考えられています。
- 有病率: 正確な有病率は不明ですが、比較的まれな疾患です。瘢痕性脱毛症の中では、DLEに次いで頻度が高いとされています。
- 好発年齢: 30〜60歳代に多く、特に中年女性に好発します。
- 人種差: 特定の人種に多いという報告はありません。
- 遺伝的要因: 家族内発症の報告もあり、遺伝的要因の関与が示唆されています。特定のHLA(ヒト白血球抗原)との関連も報告されています。
LPP症状は?
主な症状は以下の通りです。
頭皮のかゆみ、痛み、灼熱感: 最も一般的な初期症状です。 毛包周囲の赤みや鱗屑(りんせつ)、毛穴の周りが赤み、フケのような白いかさぶたができることがあります。 炎症が進行すると、毛が抜け落ち、その部分が滑らかになります。これは通常、頭頂部から始まり、徐々に広がっていきます。 脱毛した部分に、傷跡のような硬い組織が形成され、永久的な脱毛につながります。
- 初期症状: 頭皮のかゆみ、痛み、灼熱感が最も一般的な初期症状です。これらの症状は、脱毛に数ヶ月から数年先行することもあります。
- 脱毛: 頭頂部から始まり、前頭部や側頭部へと拡大していくことが多いです。びまん性に脱毛が進行する場合もあります。
- 毛孔周囲の炎症: 毛穴に一致した紅斑、丘疹、鱗屑(フケのようなかさぶた)が特徴的です。
- 4瘢痕形成: 炎症が進行すると、毛包が破壊され、萎縮性瘢痕(へこんだ傷跡)を伴う永久的な脱毛となります。
- 毛孔の消失: 脱毛部位では、毛孔が消失し、皮膚が滑らかになります。
- バリアント(亜型): 前頭線維性脱毛症 (Frontal Fibrosing Alopecia; FFA): 前頭部の生え際が後退するタイプのLPPです。更年期以降の女性に多く、眉毛の脱毛を伴うこともあります。
- Graham-Little-Piccardi-Lassueur症候群: 頭皮の瘢痕性脱毛、腋窩(わきの下)や鼠径部(股)の非瘢痕性脱毛、全身の毛孔性丘疹(毛穴に一致したぶつぶつ)を特徴とする、稀なLPPの亜型です。
LPPと円形性脱毛症の違い
特徴 | 毛孔性扁平苔癬 (LPP) | 円形脱毛症 (AA) |
---|---|---|
病態 | 毛包を標的とした自己免疫性炎症性疾患 | 毛包を標的とした自己免疫性疾患(毛周期の異常) |
脱毛の性質 | 瘢痕性脱毛症(不可逆的) | 非瘢痕性脱毛症(可逆的、ただし難治例や再発例あり) |
好発年齢 | 30〜60歳代、中年女性に多い | 若年者に多い(小児から高齢者まで発症しうる) |
好発部位 | 頭頂部、前頭部(前頭線維性脱毛症では前頭部生え際) | 頭部(頭髪以外にも、眉毛、まつ毛、体毛に生じることもある) |
脱毛斑の境界 | 不明瞭なことが多い | 明瞭 |
脱毛斑の形状 | 不規則な形状、融合傾向あり | 円形または楕円形 |
脱毛斑の状態 | 毛孔消失、萎縮性瘢痕(へこんだ傷跡)、発赤、鱗屑 | 滑らか、皮膚の萎縮なし、毛孔は保たれる、感嘆符毛(!)を認めることがある |
自覚症状 | かゆみ、痛み、灼熱感 | 通常は無症状(軽度のかゆみ、違和感を伴うことがある) |
進行 | 慢性進行性、徐々に拡大 | 急速に進行することもある、再発を繰り返すこともある |
病理組織学的所見 | 毛包周囲(特に上部)のリンパ球浸潤、毛包破壊、瘢痕形成 | 毛包周囲(特に毛球部)のリンパ球浸潤(スウォーム オブ ビー:蜂の群れ)、毛球の小型化 |
血液検査 | 通常、異常なし | 通常、異常なし(甲状腺疾患などの合併を調べる場合がある) |
治療 | ステロイド外用・局注、免疫抑制薬内服、抗マラリア薬内服など | ステロイド外用・局注、局所免疫療法、ステロイドパルス療法など |
予後 | 慢性進行性、不可逆的な脱毛 | 症例によって様々、自然治癒することもあるが、難治例や再発例もある |
LPPの原因は?
LPPの正確な原因は不明ですが、自己免疫疾患の一種であると考えられています。つまり、体の免疫システムが誤って自分の体の組織(この場合は毛包)を攻撃してしまうことで炎症が起こります。
- 標的抗原: 毛包のどの部分が免疫反応の標的となるのか、完全には解明されていません。ケラチンやペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ (PPAR-γ)などが候補として挙げられています。
- 免疫細胞: CD8陽性T細胞が、毛包の幹細胞領域を攻撃し、破壊することで脱毛が起こると考えられています。
- 環境要因: 紫外線、ウイルス感染、薬剤などが誘因となる可能性が指摘されています。
LPPはどのように診断される?
LPPの診断は、通常、皮膚科医による視診と、必要に応じて皮膚生検(皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)によって行われます。
- 視診: 頭皮の診察により、特徴的な臨床所見を確認します。ダーモスコピー(拡大鏡)を用いることで、毛孔周囲の炎症や毛孔の消失などをより詳細に観察できます。
- 皮膚生検: 確定診断には皮膚生検が重要です。典型的には、毛包周囲のリンパ球浸潤、毛包上部の破壊、インターフェース皮膚炎(軽度または見られないことが多い)などの所見が認められます。
- 血液検査: LPPでは通常、血液検査で異常は認められません。ただし、DLEなど他の膠原病との鑑別のため、抗核抗体などの検査を行うことがあります。
LPPの治療法は?
現在のところ、LPPを完全に治す治療法はありません。しかし、治療の目標は、炎症を抑え、症状を緩和し、脱毛の進行を遅らせることです。
主な治療法には以下のようなものがあります。
- ステロイド外用薬: 炎症を抑える強力なステロイドの塗り薬が第一選択です
- ステロイド局所注射: 頭皮の炎症部位に直接ステロイドを注射する方法です。病変が限局している場合に有効です。
- 免疫抑制薬の内服: シクロスポリン、メトトレキサートなどの免疫抑制薬が用いられます。ステロイド外用や局所注射で効果が不十分な場合や、病変が広範囲に及ぶ場合に検討されます。
- 抗マラリア薬: ヒドロキシクロロキンが用いられることがあります。特に、かゆみや灼熱感などの症状に効果がある場合があります。
- 紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法)、アセトレチン(ビタミンA誘導体)内服などが用いられることもありますが、効果は限定的です。