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寒暖差による一過性顔面紅潮について

冬の外出後、暖房の効いた部屋に入ると「顔がポッと赤くなる」こと、ありませんか?これは 寒暖差で血管が急に広がることが原因です。酒さの一部と言われていますが、常に赤いタイプの酒さに比べて治療が難しく、患者さんも医療機関も困ってしまう状態です、残念ながら海外では一般的に使用されている内服・外用薬が日本ではほとんどの場合保険診療で処方できない状況です。

血管拡張

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これは病気なの?

  1. 基本的には 生理的(正常)な反応です。
  2. でも、「すぐ赤くなる」「赤みがなかなか引かない」「赤くなるのが恥ずかしい」 という方は少なくありません。
  3. こうした状態を 一過性顔面紅潮といいます。

さらに詳しく

  1. 寒暖差による顔面紅潮は、急激な温度変化に対する皮膚血管の過剰反応によって起こります。
  2. 寒い環境では皮膚表面の血管が熱損失を防ぐため収縮し、暖かい環境では熱放散のため拡張します。
  3. したがって寒冷から温暖への急な移行で血管が一気に拡張し、再び収縮して平常に戻るまで時間がかかるため、一時的に顔面が赤くほてります​。
  4. この反応が強い人では、拡張した毛細血管が「拡張しっぱなし」の状態になり、赤ら顔が持続しやすいとされています​。
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神経学的要因の関与

血管拡張物質の過剰な放出

血管拡張物質の放出

  1. 顔面の皮膚には豊富な三叉神経由来の知覚神経が分布しており、急な寒冷刺激などでこれらが興奮すると軸索反射によって血管拡張物質が放出され、局所的な血管拡張を引き起こします
  2. この軸索反射では、【サブスタンスP】や【CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)】などの神経ペプチドが神経末端から放出され、血管平滑筋に作用して血流増加と紅潮を招きます​
  3. さらに顔面の肥満細胞や血小板から放出される【セロトニン(5-HT)】も体温調節に関与し、顔面血管の拡張反応を増強する可能性が示唆されています​
  4. このような神経-血管の過敏性が、温度差による紅潮の背景にあると考えられます。

自律神経の調節不全

交感神経による血管拡張

  1. 自律神経の調節不全も重要です。自律神経は皮膚血管の収縮・拡張を制御して体温を保っていますが、ストレスや生活リズムの乱れなどで自律神経のバランスが崩れると血管調節がうまく働かず、熱がこもりやすくなるため顔がほてりやすくなります。​
  2. 実際に「顔が赤くなりやすい」体質の人では交感神経と副交感神経の切り替えが不安定になっている場合があり、寒暖差による刺激への反応が過剰になると考えられます。
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温度差による赤ら顔の治療方法

温度差による一過性の顔面発赤(酒さ)の治療は大きく分けて以下の7種類あります、それぞれ詳しく記載します。

現在、温度差による顔面の発赤(酒さ)の治療は、日本の保険診療での対応は限られていますが、症状によっては自由診療でのケアをご案内できる場合もあります。ご希望の方はご相談ください。

  • 外用薬(α受容体作動薬)
  • 内服薬(β受容体遮断薬)
  • 内服薬(中枢性α2受容体作動薬)
  • セロトニン(5-HT)再取り込み阻害剤の内服
  • 漢方薬
  • 光・レーザー治療
  • メイクなど
    1. 外用薬による血管収縮療法

      軟膏

      顔面の持続的な赤み(紅斑)に対しては、交感神経α作動薬の外用による血管収縮療法が有効です、いずれも日本国内では保険適応がありません、星の原クリニックでは自費診療でブリモニジンゲル(現在準備中2025-4-6)をご用意しております。

    1. ブリモニジン(Brimonidine)ゲル(α2受容体作動薬)
    2. オキシメタゾリン(Oxymetazoline)クリーム(α1受容体作動薬)

    似顔絵 【塗布後30分程度で皮膚の血管を収縮させ、顔の赤みを数時間軽減します​。これらは酒さの紅斑治療薬として海外で承認されており、2019年の米国酒さ専門家委員会のガイドラインでも紅斑・紅潮に対する第一選択として最もエビデンスが高い外用薬に挙げられています​。効果は一時的(数時間)ですが、イベント前など一過性紅潮を抑えたい場面で有用です​。

    内服治療

    内服薬

    これら内服薬は紅潮体質そのものを根本治療するものではありませんが、一時的または補助的に症状を和らげる手段として用いられています、血圧・脈拍に影響するため慎重に投与します。

    血管作動薬の抑制

    経口β遮断薬

    紅潮を全身的に抑える目的で、経口β遮断薬が用いられることがあります。【プロプラノロール】や【カルベジロール】といった非選択的β遮断薬は、交感神経β受容体を遮断して末梢血管の過剰な拡張を抑制し、紅潮や動悸を和らげます。

    似顔絵 2020年の系統的レビューでは、これらβ遮断薬の投与により紅斑とフラッシングが大幅に軽減したとの報告が複数あり、効果発現も比較的速いことが示されています​。もっとも、研究の多くは小規模で、副作用として徐脈や低血圧が生じるリスクもあります​。従って、通常治療(外用薬など)で十分な効果が得られない重度の症例に限り、慎重投与が検討されます​。

    中枢性α2作動薬

    クロニジン(中枢性α2作動薬)も、更年期ホットフラッシュなどの顔面紅潮に対して処方例があります。米国の酒さ治療ガイドでも、他の手段でコントロール困難な重症例ではクロニジンやβ遮断薬(プロプラノロール、ナドロールなど)の追加投与されます、緊張すると手足が冷えて顔が赤くなる方によく効きます。

    セロトニン(5-HT)再取り込み阻害剤 SSRI

    選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は元々うつ病などの治療薬ですが、近年、難治性の酒さ紅斑・紅潮に対してパロキセチン(SSRI)が有効であったとの報告があります。 パロキセチン25mg/日を12週間内服で、顔面紅斑・ほてり・灼熱感が改善し、安全性も良好でした​。作用機序は完全には解明されていませんが、中枢神経におけるセロトニン増強による体温調節・血管運動神経の安定化が示唆されています​。元々、更年期ホットフラッシュに対するパロキセチンの有効性​が知られており、その延長線上で酒さの紅潮にも応用された形です。

    漢方薬

    漢方薬

    欧米では使用されない薬です、しっかりしたエビデンスはございませんが漢方薬がよく効く場合があるります。

    黄連解毒湯

    1. 特に余分な熱による赤みを伴う肌トラブルに効果的です
    2. 首から上の症状に良く効きます
    3. 肌やのどの乾燥を潤し、熱を冷ます効果があります

    白虎加人参湯

    1. アトピー性皮膚炎の治療によく使用します
    2. 肌の灼熱感やほてり感、発赤、口の乾燥を伴う場合
    3. 発赤や熱感が強い場合に有効です

    柴胡加竜骨牡蛎湯

    1. 特に緊張による顔の赤みに効果が期待できる漢方薬です
    2. 比較的体力があって、神経がたかぶってイライラしやすい方に適しています
    3. 上半身に「陽気」が集まり、口の渇き、目の充血、赤ら顔、のぼせなどの熱症状がある方に効果的です

    清上防風湯

    1. 赤ら顔でときにのぼせがある場合
    2. 顔面の赤みを改善し、のぼせを抑える
    3. にきび、顔面・頭部の湿疹・皮膚炎、赤鼻(酒さ)にも使用される
    4. もともとは若い人向けのニキビ治療薬です

    加味逍遥散

    1. ストレスや自律神経の乱れによる顔面紅潮
    2. イライラや不安を軽減し、自律神経のバランスを整える
    3. 女性に多いホルモンバランスの乱れによるほてりにも効果的
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    交感神経系の治療薬のまとめ

    海外では赤ら顔に対する内服治療薬は多種あります、全て自律神経へ作用します、作用機序と適応、副作用について分かりやすいように一覧表にしました。

    クロニジン中枢性α2
    作動薬α2刺激による
    交感神経抑制更年期ホットフラッシュ、
    難治性紅潮、
    注意欠如多動症眠気、口渇、
    低血圧
    薬剤名薬剤分類主な作用適応例副作用
    プロプラノロールβ遮断薬β受容体遮断による
    末梢血管拡張抑制
    紅潮・動悸の緩和
    (酒さ、社会不安など)
    徐脈、低血圧

    交感神経について詳しく

    上記のように、一過性の温度差により赤ら顔治療には交感神経の関連の薬剤、α2作動薬β遮断薬がよく使用されます。交感神経のαとβ神経の特徴は以下になります。もともと血圧を下げる薬なので血圧が低い方は使用できません。

    受容体主な分布刺激による効果
    α1皮膚・内臓血管など血管収縮、血圧上昇
    α2中枢神経・シナプス前交感神経抑制(負のフィードバック)
    β1心臓心拍数・収縮力の増加
    β2骨格筋血管・気管支など血管拡張、気管支拡張
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    光・レーザー治療

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    一過性の顔の赤みに関してはIPLとレーザー治療は効果が低くお勧めしません、IPLや赤に反応するレーザーは赤くない時に治療しても効果が出ません、一過性の顔の発赤でお悩みの方はほとんどの場合、来院時顔が赤くありません。

    似顔絵 国内外のガイドラインでは、持続性顔の赤み・血管拡張が主体の酒さ(紅斑・紅潮型)に対してIPLや血管レーザー治療を行うことが推奨されています​、特に持続する毛細血管拡張(いわゆる毛細血管の浮き出し)には高い効果があります。

     

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    一時的な対処法

    クーリング

    冷却スプレー

    顔が火照って赤くなってしまった際に、その場で症状を和らげる対処も有用です。例えば冷却は即効性があります。冷たい水で顔をやさしく濡らしたり、保冷剤やクーリングスプレーでほてった部分を冷やすと、血管が収縮して一時的に赤みを軽減できます​。ただし、極端に冷やしすぎると刺激となるため、冷水ではなくぬるま湯程度でゆるやかに冷ますことが推奨されています​。

    メイク・コンシーラーで赤みを隠す

    コンシーラ

    グリーン系のコントロールカラーやコンシーラーで赤みを隠すメイクもQOL改善に有効です​。 実際、赤ら顔の患者さんには緑色の補色効果で赤みを目立たなくする化粧下地の活用や、カバー力の高いコンシーラーでの対処を指導すると満足度が高いです

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    日常の紅潮の予防策

    防寒

    特に寒風は皮膚刺激が強いため、冬場は厚手のマフラーやフード付きの上着で肌の露出を減らすことが勧められます​。必要に応じて**フェイスマスク(目出し帽やネックゲイターなど)**を使用すると、頬や鼻を冷気から効果的に保護できます​。

    室内温度の調節

    一方、室内では暖房の効きすぎにも注意が必要です。室温が高すぎるとそれ自体が紅潮の引き金になるため、室内は適度な温度(過度に暑くしすぎない)に調整します​。寒い戸外から暖かい室内に入った直後に一気に上着を脱ぐのではなく、重ね着を活用して徐々に体温を順応させる(段階的に上着を脱ぐ)ことも有効です​。

    急激な温度変化を避ける

    日常生活でも、冷えた体を急激に熱いお湯で温めないようにし、例えば冷えた手で直接顔に触れない、洗顔時はいきなり熱湯でなく徐々に温度を上げる、といった配慮が紅潮予防につながります​。 生活習慣の改善: 自律神経の安定のために規則正しい生活を送りましょう。

    規則正しい生活

    不規則な生活リズムや睡眠不足は自律神経を乱し、寒暖差刺激への過敏性を高める恐れがあります​。十分な睡眠と休息をとり、ストレスを溜めないことが大切です​。ストレスが蓄積すると交感神経緊張が持続して血管収縮・拡張のバランスが崩れ、結果的に体温調節不良による紅潮が起こりやすくなります​。

    適切な運動・入浴

    適度な運動や入浴で全身の血行を良くすることも有益です。手足の先が冷える方では、手足を温める(マッサージや保温)ことで体全体の血流バランスを整え、「冷えのぼせ」(末梢が冷えて顔だけほてる状態)を防ぐ効果が期待できます​。

    刺激の回避

    刺激となる要因の回避: 個々の患者で紅潮を誘発する悪化因子(トリガー)を把握し、それをできるだけ避けるよう指導します。一般に報告される紅潮誘発因子には、アルコール摂取、熱い飲み物、香辛料の強い食事などがあります​。これらは顔面血管を拡張させやすいため、紅潮しやすい人では控えると良いでしょう。同様にサウナや熱い風呂、激しい運動など急激に体温を上昇させる行為も紅潮を起こしやすいため注意が必要です。

    紫外線対策

    また強い日差し(紫外線)も顔の赤みを悪化させる一因です​。日中は季節を問わず日傘や帽子を利用し、SPF値の高い日焼け止めを塗って紫外線から皮膚を守ることが推奨されます​。紫外線は毛細血管拡張や炎症を促進し、長期的には紅潮を悪化させる要因となります。

    スキンケア

    肌のスキンケア: 紅潮しやすい肌ではバリア機能の低下や敏感肌傾向を伴ることもあるため、日頃から刺激の少ないスキンケアを心がけます​。具体的には、保湿を十分に行い皮膚の水分保持力を高めておくことが重要です​。 肌が乾燥していると寒暖差刺激で炎症が誘発されやすくなるため、セラミド配合のクリームやワセリンなどでしっかり保湿しましょう。

    洗顔・入浴

    洗顔や入浴時は刺激の強い石鹸やゴシゴシ洗いを避け、ぬるま湯で優しく洗浄します​ 。 過度な洗顔は皮脂膜を奪いバリアを弱めるので禁物です。化粧品も低刺激・無香料のものを選び、なるべくシンプルなケアに留めます​。

    敏感肌用の化粧品

    敏感肌用の基礎化粧品を用いる、合わない製品はすぐ中止する、といった対応も必要です。冬場は加湿器を使うなど室内の湿度管理をして肌の乾燥を防ぐことも有用です。これらスキンケアの工夫は、直接紅潮を止めるわけではありませんが皮膚の健康を保つことで刺激に対する耐性を高め、結果的に寒暖差紅潮の予防につながります

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    検査等

    採血

    寒暖差による一過性の顔面紅潮に対して、他の病気による紅潮でないか調べます。顔面紅潮を来す疾患には以下のような疾患があります、必要に応じて更年期のホルモン状態や甲状腺機能の検査を行います。顔面紅潮以外の症状(動悸、発汗、喘鳴、紅潮が起こる部位などがある場合は特に慎重に鑑別します。

    1. 更年期ホットフラッシュ
    2. 甲状腺機能亢進症
    3. カルチノイド症候群(発作性に顔面紅潮と動悸・高血圧を起こす)
    4. 褐色細胞腫(発作性に顔面紅潮と動悸・高血圧を起こす)
    5. 肥満細胞症
    6. 薬剤副作用(ニトログリセリンや降圧剤)
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    治療の実際

    似顔絵 海外では一般的に使用されている一過性の顔の発赤に対する薬は、日本の健康保険制度ではそもそも薬自体がなかったり、あっても保険の適応がなく保険で処方できない状況です。

    生活習慣と皮膚ケア

    まず基本は非薬物療法になるります、上記の防寒・室内温度の調節・規則正しいライフスタイル・日焼け防止などを行います、実際はそれだけでは治らない事が多く、以下の薬物療法に移ることがあります。

    外用薬(α作動薬)の適時使用

    日常生活に支障がある場合には薬物療法を行います​。まずは副作用の少ない外用薬を使用します、必要なタイミングでの外用α作動薬(例:人前に出る前にブリモニジンを頬に塗布しておく)、ブリモニジンは保険適応外でクリニック内で自費での購入になります。

    内服治療の開始(β遮断薬)

    外用薬で不十分の場合や、緊張時に紅潮する場合は頓用のβ遮断薬(例:プロプラノロール少量をイベント前に服用)といった対症療法をおこないます​。
    紅潮が頻繁で強い場合には、低用量の経口β遮断薬を継続内服してもらい経過を見ることもあります​ 。特に顔の火照りに伴って動悸や手の震えなど交感神経亢進症状がある場合、β遮断薬はこれら全身症状も和らげる利点があります、降圧作用があるので低血圧の方には使用できません。

    内服治療の開始(α2作動薬)

    更年期などホルモン要因が関与する紅潮には中枢性α2作動薬(クロニジン)が奏効することもあり、眠気・低血圧・口渇等の副作用がありますので慎重に使用します​。

    安易なステロイド外用の常用は避ける

    漫然としたステロイド外用は避けるべきです(ステロイドは血管を一時的に収縮させますが長期的には皮膚を菲薄化し、酒さ様皮膚炎を招く恐れがあります​。実際、ステロイド外用剤や強力な免疫抑制外用剤(タクロリムスなど)で症状が悪化した例もあるため注意が必要です​。

    IPLや血管レーザー治療

    紅潮が慢性的に残るようであれば皮膚科でのレーザー治療も選択肢となります、 美容的な観点から、IPLや血管レーザー治療により毛細血管拡張を治療できます、残念ながら保険適用がございません。

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